ここで、世間に根強く残る誤解や偏見を正しておく必要があります。最も多い誤解は「強面俳優は私生活でも気性が荒く、近寄りがたい性格なのではないか」というものです。しかし、実際の現場を取材する映画関係者や制作プロデューサーたちの証言は、まったく逆の事実を示しています。
映像業界において、強面俳優ほど「現場での挨拶やスタッフへの礼儀作法が徹底している」というのは公然の事実です。彼らは若い頃から自らの外見によって周囲から警戒されたり、威圧感を与えてしまったりするリスクを痛切に経験してきました。だからこそ、現場に入るときは誰よりも明るく大きな声で挨拶し、小道具のスタッフやエキストラに対しても腰を低く接することを自らに課しています。
遠藤憲一は過去の手記やインタビューで、若手時代にただ歩いているだけで警察官から何度も職務質問を受けたり、銀行の窓口で警戒されたりした苦い経験を明かしています。そうした社会的な視線を肌で知っているからこそ、私生活では無用なトラブルを避け、常に穏やかで周囲に気を配る姿勢が骨の髄まで染み付いているのです。
また、「悪役ばかり演じていると役柄が固定化して俳優寿命が短くなる」というのも一面的な誤解に過ぎません。実際には、悪役で圧倒的なインパクトを残したバイプレイヤーほど、善人役やコミカルな役に転じた際の表現の幅が評価され、息の長いキャリアを築いています。「怖さ」を自在にコントロールできる技術を持つ者だけが、その対極にある「優しさ」や「哀愁」をリアルに表現できるというパラドックスが存在します。