当時、シアトル・マリナーズの絶対的支柱としてメジャーリーグを席巻していた男が、日本の刑事ドラマに出演する。しかもゲストの被害者や単なるカメオ出演ではなく、冷徹な犯人役。この型破りな企画は、他ならぬイチロー自身の並々ならぬ熱望から動き出した。
もともと同シリーズの大ファンだった彼のもとにオファーが届いた際、本人が出した条件は痛快だった。「中途半端な役ではなく、古畑と真っ向から知恵比べができる犯人なら出たい」。これを受けた三谷幸喜は歓喜し、ただちにアスリートとしての矜持を保ちつつ完全犯罪を企てる「もう一人のイチロー」像を構築し始めた。
ドラマ内のイチローは、義理の兄を脅迫する悪徳マネージャーを始末するため、冷徹かつ完璧な計画を遂行する。スターのイメージダウンを恐れて当たり障りのない配役でお茶を濁すテレビドラマ業界の安全策を真っ向から蹴散らしたフジテレビジョンと制作陣の決断は、今振り返っても極めて異例だった。