富士山を望む景勝地が全国に数多あるなかで、なぜ新倉山浅間公園の忠霊塔からの眺望だけが、これほど突出した国際的認知を獲得したのでしょうか。現地を訪れると、聞こえてくる会話の過半数は英語、中国語、タイ語、スペイン語などの多言語です。富士吉田市観光振興課の動向データによると、桜の開花期間中に訪れる観光客のうち、外国人旅行者の比率は約7割から8割に達する日も珍しくありません。
この熱狂の起点は、『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』改訂第4版の表紙に採用されたことでした。赤・白・青・緑という明確な色彩コントラスト、そして「霊峰富士」「五重塔(戦没者慰霊塔である忠霊塔)」「ソメイヨシノ」という、海外が想起するクラシックな日本的情緒のコア要素が単一の画角に凝縮されています。観光社会学が指摘する「記号消費の完全な具現化」がここに成立しているわけです。
TripAdvisorや海外フォーラム(Redditなど)における外国人旅行者のネットの反応を精査すると、「息をのむ美しさだが、想像以上に過酷なトレッキングだった」「朝6時に到着しなければ数時間待たされる」といった、景観への最大級の賛美と混雑・負荷への戸惑いが表裏一体となって投稿されています。世界を熱狂させる美しさの裏には、入念な下準備を要求される現場の厳しさがあります。