青果の保存現場で最も頻発するトラブルが、「緑色っぽいから、室温に置いて追熟させて甘くしよう」という判断による腐敗事故です。これは果物に対する決定的な誤解から生じています。
バナナ、キウイフルーツ、メロン、洋梨などは「クライマクテリック型果実」と呼ばれ、収穫後も自身が放出するエチレンガスによってデンプンを糖へと分解し、甘さと香りを増す「追熟」を行います。これに対し、パイナップルは柑橘類やイチゴ、スイカと同じ「非クライマクテリック型果実」に分類されます。
パイナップルは樹上で日光を浴びて光合成を行っている期間にしかデンプンを糖に変換できず、果肉内には収穫後に糖へ変えるための予備デンプンをほとんど蓄えていません。つまり、収穫された瞬間に糖度の上昇は完全にストップしています。「パイナップル追熟しない理由」はまさにこの生化学的構造にあり、店頭に並んでいる瞬間がその果実の味のピークなのです。
常温で放置して皮が黄色くなり、酸味が抜けて「甘くなった」と感じることがありますが、これは甘味成分が増えたのではなく、酸味を司るクエン酸などの有機酸が呼吸作用によって分解・減少し、相対的に酸っぱさを感じにくくなったに過ぎません。それどころか、過度な常温放置は果肉の崩壊や発酵を招き、品質劣化の直滑降を引き起こすリスクと隣り合わせです。