シニア犬の息が荒いとき、「もう歳だから疲れやすいのだろう」と見過ごす判断は取り返しのつかない事態を招きます。老犬呼吸が早い原因の大半は、単なる生理的な老化ではなく、体内の重要臓器が酸素欠乏に悲鳴を上げている病理的シグナルです。
特に小型犬のシニア期において圧倒的に多く見られるのが心臓疾患です。犬心臓病呼吸が荒い状態に陥る背景には、左心房と左心室を隔てる弁が変性して血液の逆流が起きる「僧帽弁閉鎖不全症」が存在します。逆流によって心臓の内圧が高まると、血液中の水分が肺組織へと漏れ出し、犬肺水腫症状を引き起こします。これは分かりやすく言えば「陸上にいながら肺の中で溺れている」状態であり、十分なガス交換ができなくなるため、犬は酸素を取り込もうと必死に胸を動かし、老犬呼吸が浅く速い状態へと突入するのです。
心臓疾患以外にも見落とせない要因が存在します。気管が扁平に変形して空気の通り道が狭まる気管虚脱や、誤嚥に起因する誤嚥性肺炎などの呼吸器疾患、さらには腎不全末期の尿毒症や重度の貧血、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)といった内分泌疾患でも呼吸は著しく乱れます。加えて、シニア犬は自律神経の乱れから体温調節能力が著しく落ちており、室内のわずかな温度上昇でも老犬熱中症呼吸困難を発症するリスクが格段に跳ね上がります。
これらすべての病態に共通しているのは、代償機構(体が異常を自力で補おうとする働き)が限界を迎えた瞬間に、急激な呼吸困難として表面化するという点です。症状に気づいた段階で、すでに病態は数日前から進行しているケースが多いことを強く認識しなければなりません。