検索エンジンにおいて「岸部一徳 現在」と入力すると、関連ワードに「死亡」「引退理由」といった不穏な単語が並びます。なぜ現役で活動を続けている名優に、このような極端な噂が定着してしまったのでしょうか。取材を進めると、3つの明確な情報交錯が浮かび上がってきました。
第1の決定打は、実弟である岸部四郎(シロー)さんの逝去です。2020年8月28日、ザ・タイガースのメンバーでありタレントとしても国民的人気を博した実弟が、拡張型心筋症による急性心不全のため71歳でこの世を去りました。報道各社が一斉に「岸部さん逝去」と報じた際、見出しの字面だけを流し読みした一部のネットユーザーが兄・一徳氏と混同し、誤情報がSNS上で拡散したという経緯があります。
第2の理由は、社会現象を巻き起こしたドラマ『相棒』における小野田公顕官房長の衝撃的な殉職劇です。『相棒 -劇場版II-』(2010年公開)において、小野田官房長が刺殺されるというドラマ史に残る幕引きは、視聴者に強烈なトラウマと記憶を植え付けました。フィクションにおける「死」のイメージが、月日を経て演者本人のイメージと無意識に接続されてしまった側面は否定できません。
第3の理由は、公の場における引退宣言の不在と寡黙なパブリックイメージです。岸部一徳はSNSやバラエティ番組で私生活を切り売りするタイプではなく、インタビューも極めて限定的です。メディア露出が減れば「引退したのではないか」と短絡的に推測されるのが現代のネット社会の常であり、引退説も完全な推測に過ぎません。