2000年代半ば、オセルタミビル(商品名:タミフル)を服用した十代の若者がマンションから転落死する事故が相次ぎ、「タミフルを飲むと飛び降り自殺を引き起こす」という言説が瞬く間に社会へ定着しました。厚生労働省は2007年に原則として10代へのタミフル投与を差し控える注意喚起を発令したため、今なお「異常行動=タミフルの副作用」と信じ込んでいる保護者は少なくありません。
この認識は近年の大規模調査によって完全に覆されています。厚生労働省の研究班が実施した数万人規模の患者疫学調査、および国内外の比較臨床試験の結果、以下の決定的な事実が明らかになりました。
- 薬の有無による発症率の差はない:タミフルを服用していない(無服用の)インフルエンザ患者であっても、服用者とほぼ同じ割合で重篤な異常行動が発生している。
- 他の抗インフルエンザ薬でも同等に報告:バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)、ラニナミビル(イナビル)、ザナミビル(リレンザ)など、作用機序が異なるすべての抗インフルエンザ薬において同様の行動が報告されている。
2018年、厚生労働省は科学的エビデンスの蓄積に基づき、10代に対するタミフルの使用制限措置を解除しました。結論として、異常行動は「薬の成分による特異的な副作用」ではなく、「インフルエンザ感染症そのものによって引き起こされる脳・神経症状」であると結論付けられています。薬を飲ませないからといって安心することは決してできません。