入江診療所の有能な看護師として村人に親しまれながら、裏では軍事組織「山狗(やまいぬ)」を私兵のように操っていた鷹野三四。彼女が引き起こした「綿流しの夜」の惨劇の数々は、単なる偶発的な事故や精神疾患による暴走ではありません。すべては綿密に計算された「自作自演の神話」の構築劇でした。
物語の深層において、彼女が真に成し遂げようとしていたのは「祖父の研究の正当性を世界に証明すること」に尽きます。彼女の義理の祖父である鷹野一二三(たかの ひふみ)は、風土病と目されていた奇病を「人間の脳内寄生虫による精神寄生病(雛見沢症候群)」としていち早く発見した先駆的学者でした。しかし、当時の学界は彼の論文をオカルトじみた妄言として嘲笑し、研究を完全に黙殺。一二三は学会の冷遇と世間の無理解の中で、無念の死を遂げたのです。
この屈辱を目の当たりにした彼女の心に芽生えたのは、学界と日本社会に対する底知れない憎悪でした。祖父の理論が真実であることを証明するにはどうすればいいのか。その答えが、雛見沢症候群の「女王感染者」である古手梨花を暗殺し、村人全員が疑心暗鬼と凶暴化の末に自滅する「終末作戦(緊急マニュアル第34号の発動)」を実行することでした。村全体が発狂して壊滅すれば、一二三の仮説は歴史的事実として認められざるを得ない。すなわち彼女にとって、村人全員の虐殺は祖父を神に祭り上げるための冷酷な儀式に過ぎなかったのです。
彼女は村の土着信仰である「オヤシロさまの祟り」を巧みに利用しました。怪死事件の記録を収集したスクラップ帳を前原圭一らに見せ、疑心暗鬼の種を蒔いたのも、すべては自らの計画を古代の呪いへと偽装し、捜査の目を逸らしながら症候群の末期症状を意図的に誘発するための心理工作でした。