フラッシュオーバーは前触れもなく発生するわけではありません。火災室内部では、破滅的な全室火災に至る直前にいくつかの明確な物理的サイン(前兆現象)が現れます。
1. ロールオーバー(炎の波)の発生
最も危険な前兆が「ロールオーバー(Flameover)」です。熱分解によって生じた可燃性ガスが煙層とともに天井を這い、火元から離れた天井付近で青白い炎やオレンジ色の炎の舌となってウネウネと波打つように走り抜けます。これが見えた場合、フラッシュオーバー発生まで数秒から数十秒の猶予しか残されていません。
2. 濃煙の急速な降下と乱気流
天井に溜まった黒煙が急速に下方へ押し下げられ、部屋の高さの半分、さらには床面近くまで立ち込めてきます。煙自体が高熱を帯びているため、煙層の境界が激しく揺れ動くサーマルドラフト(気流の乱れ)が目視されます。
3. ガラスの熱割れと強烈な輻射熱
室内の温度が急上昇することで、窓ガラスが内側からパチパチと音を立てて割れ始めます。同時に、数メートル離れた場所に立っていても皮膚が焼けるような耐え難い放射熱を感じるようになります。
消防隊員が個人防護具(PPE)や空気呼吸器(SCBA)を装着して屋内進入する場合でも、天井付近の温度が600℃(華氏約1,100度)に近づいた段階で即座に注水冷却(ガス冷却)を行うか、退避行動をとらなければ生命の危機に瀕します。