バカ殿という稀代のキャラクターは、最初から独立した番組として誕生したわけではありません。その原点は、1970年代後半のTBS系『8時だョ!全員集合』のショートコント、そしてフジテレビ系『ドリフ大爆笑』の傑作コント群にあります。ザ・ドリフターズのリーダー・いかりや長介さんが威厳ある家老役を務め、新参メンバーだった志村さんが世間知らずで我が侭な若君を演じるという、強固な「権力構造の逆転劇」がすべての始まりでした。
志村けんさんの自著『変なおじさん』や『志村流』によると、志村さんは幼少期から古典落語や大衆演劇、東映時代劇に親しんでおり、「もしも絶対的な権力を持つお殿様が、中身はまったくの無邪気な子供だったらどうなるか」という疑問がコントの核になったと述懐しています。本来であれば打ち首になるような無礼を家臣が突っ込み、身分の高い殿様がコミカルに返り討ちに遭う。このカタルシスこそが視聴者の爆笑を誘いました。
1986年、その人気コントは独立した単発特番『志村けんのバカ殿様』としてフジテレビでスタートを切ります。番組は年数回の恒例特番として定着し、2020年までの約34年間にわたり全97回が放送される長寿シリーズへと成長しました。ドリフの舞台コントで培われた厳密な「間(ま)」と、豪華なスタジオセットを惜しみなく使う大がかりな仕掛けが融合し、昭和から平成のバラエティ界を牽引するモンスターコンテンツへと昇華していったのです。