坐骨神経は、腰からお尻を通って足先へと伸びる人体の中で最も太く長い末梢神経です。妊娠中にこの神経が圧迫・牽引されることで、お尻の奥の鋭い痛み、太ももやふくらはぎのしびれ、足の脱力感が生じます。日本産科婦人科学会などの臨床データによると、妊婦の約半数が妊娠期間中に何らかの腰背部痛・骨盤帯痛を経験し、そのうちおよそ15〜20%が坐骨神経痛特有の放散痛に苦しんでいると報告されています。
痛みの発生メカニズムは、妊娠のステージによって明確に異なります。
妊娠初期の坐骨神経痛の原因として挙げられるのが、卵巣や胎盤から分泌されるホルモン「リラキシン」の急増です。リラキシンには出産に向けて骨盤周辺の靭帯や関節(仙腸関節・恥骨結合)を緩める働きがあります。しかし、まだお腹が大きくなっていない時期から関節が不安定になるため、骨盤を支えようと周囲のお尻の筋肉(特に梨状筋)が過剰に緊張し、その下を通る坐骨神経を締め付けてしまうのです。
一方、妊娠後期の坐骨神経痛の激痛は、物理的負荷のピークによって引き起こされます。子宮の容積は初期の数十倍に膨らみ、羊水や胎児を含めた重みで体の重心が前方へ移動します。バランスを保とうとして無意識に背中を反らせる「反り腰姿勢(骨盤前傾)」が定着し、腰椎への負荷と梨状筋の圧迫が極限に達します。「座った状態から立ち上がれない」「数歩歩くだけで激痛が走る」といった重度の症状は、この時期に最も頻発します。