縁起の良し悪しを論じる参拝者の視界から完全に抜け落ちているのが、現代の宗教法人が直面している極めて切実な財務課題です。都市銀行や地方銀行、ゆうちょ銀行による「大量硬貨入金の手数料有料化」が定着した結果、神社仏閣の硬貨取扱手数料問題は境内の維持管理を脅かす深刻な事態に発展しています。
窓口やATMで硬貨を入金する際、一定枚数を超えると1件あたり数百円から数千円の手数料が発生します。1円玉や5円玉が賽銭箱の過半数を占める中小の神社では、賽銭箱を開けて回収した小銭を銀行口座へ入金した際、「入金手数料が賽銭総額を上回る逆ざや現象」が現実のものとなっています。
参拝者が「いい縁になりますように」と願いを込めて投じた1円玉や5円玉の束が、回収して管理する神社側にとっては「持ち出しの赤字」を生み出すという皮肉な構造が生まれています。一部の先進的な神社ではキャッシュレス決済(QRコード決済)による賽銭の導入が進められていますが、信教の自由や宗教的風情の維持といった観点から、全国的な導入率は限定的な水準に留まっています。
神社側が公式に「1円玉や小銭を入れないでほしい」と参拝者に告知することは、信仰の門戸を閉ざす行為に繋がるため容易ではありません。現代の成熟した参拝マナーとしては、縁起の良い語呂合わせを追求するあまり小銭を大量に放り込むのではなく、神社の維持管理費として役立つ100円玉や500円玉、あるいは紙幣を整然と納める意識が求められます。