諜報員と公安警察の最も本質的な差異は、法的根拠と逮捕権の有無に集約されます。公安警察は警察法第2条に規定された「公共の安全と秩序の維持」を目的とする行政機関の一部であり、法執行機関としての身分を有しています。一方で、他国の諜報員は日本の主権下では単なる私人、あるいは外交官の身分を隠れ蓑にした工作員に過ぎません。
国内法規に照らした場合、警視庁公安部をはじめとする都道府県警の公安警察官は、刑事訴訟法上の司法警察職員です。国家の秩序を破壊しようとする過激派、国際テロ組織、そして外国から送り込まれるスパイを捕捉した際には、裁判官の発付する令状に基づき強制捜査を行い、法に基づいて被疑者を逮捕する権限を持っています。
これに対し、アメリカのCIA(中央情報局)やイギリスのMI6(秘密情報部)、ロシアのSVR(対外情報庁)などの諜報機関に属する諜報員は、国外で法執行(逮捕や強制捜索)を行う権限を一切持ちません。彼らの活動目的は「国家指導者の政策決定に必要な機密情報を、合法的あるいは非合法な手段で獲得すること」に特化しています。相手国の法を潜脱して秘密裏に行動するため、活動が露見した時点で国外追放処分(ペルソナ・ノン・グラータ)を受けるか、現行犯逮捕されるリスクを常に背負っています。