この名高い故事成語のルーツをご存知だろうか。一般的には「余計なことを言わなければ災いを招かずに済む」という意味で使われるが、その発祥は長野県犀川の「人柱伝説」に遡る。水害に悩まされる村を救うため、父親が人柱として川に埋められた。その秘密を守り通していた幼い娘だったが、ある日、薮の中で鳴いた雉を見て「雉も鳴かずば撃たれまいに」と漏らしてしまう。これを聞きつけた猟師の手によって、父の居場所と村の隠し事が暴かれてしまったという悲惨な伝説である。
歴史を振り返れば、戦国時代の乱世を生き抜き天下統一を果たした徳川家康もまた、徹底した「沈黙と耐忍」を戦略としていた。軽率な発言が命取りとなる時代において、沈黙は弱さではなく最強の防衛策だったのである。また、近代文学の巨匠・夏目漱石も自著の随筆や作品の中で、人間の軽薄な発言や過度な自己主張が招く自滅の心理を鋭く観察していた。時代を超えて受け継がれてきたこの知恵は、決して古臭い訓話などではない。