10代の鮮烈なデビューを経て、原田美枝子は20代、30代とキャリアを重ねる中で、日本を代表する本格派演技派女優としての地位を盤石にしました。その決定打となったのが、1985年の黒澤明監督作品『乱』です。
彼女が演じた「楓の方」は、一族を滅ぼされた復讐のために夫の弟を誘惑し、狂気と憎悪で家中を破滅へ導く冷徹無比な悪女でした。小太刀を突きつけて脅迫した直後に情念を爆発させる長回しのシーンは、黒澤組の厳しい要求に完璧に応えた名演として、海外の映画祭でも絶賛されました。肉体を武器にする役柄でありながら、そこにあるのは冷徹なまでの知性と凄みであり、体当たり演技の次なるステージを提示しました。
さらに1998年の平山秀幸監督作『愛を乞うひと』では、娘を激しく虐待する冷酷な母親・豊子と、そのトラウマに苦しみながら自らの出自を探す娘・照恵の一人二役を演じ分けました。自ら企画の立ち上げにも深く関わったこの作品で、彼女は国内の映画賞における主演女優賞を独占。美しさだけでなく、人間の醜悪さや心の深淵を演じきれる唯一無二の女優であることを証明しました。