物語の終盤、主人公は父親が晩年を過ごした街を訪れ、知らなかった父の「もう一つの顔」と対峙する。自分を捨てた冷酷な男というイメージは、現地の人々の証言や残された日記によって少しずつ覆されていく。父は去ったのではない。去らざるを得ない苦悩のなかで、絶えず息子を思い続けていたのだ。
結末で提示されるのは、安易な和解や涙の再会ではない。すでにこの世を去った父との、魂の深部での対話だ。切り倒された大木の根元から伸びる青々とした新芽のように、主人公の心に芽生えたのは許しと前を向く強さだった。このラストシーンがもたらすカタルシスこそ、本作が時代を超えて読者を惹きつけてやまない最大の理由である。