『自省録』が他の哲学書と決定的に異なるのは、著者が象牙の塔に籠もった学者ではなく、巨大帝国の全責任を背負った現役のトップリーダーだった点だ。
彼の日記には、部下の裏切り、財政難、疫病の蔓延、そして連日の泥泥とした政治工作に対する本音の吐露が散りばめられている。「朝起きたら自分に言い聞かせよ。今日も恩知らずで、粗暴で、裏切り者たちに会うだろう」という記述は有名だ。
しかし、彼は人間不信に陥ることを拒絶した。彼らは物事の良し悪しを知らないだけなのだから、自分は怒らず、淡々と己の務めを果たさねばならないと自分を戒める。この葛藤と気高さは、複雑な組織を率いる現代の経営者やマネージャー層にとって、共感と深い学びの宝庫となっている。