名店と呼ばれる老舗やすき焼き専門店は、白菜の水分をただ恐れるのではなく、巧みに手なずけている。明治創業の浅草今半をはじめとする一流の現場で実践されているのが、葉と芯の徹底的な「部位別トリートメント」だ。芯の硬い部分はあらかじめ削ぎ切りにして繊維を断ち、軽く素焼きにするか、ザルに広げて表面の余分な水分を飛ばしておく手法が極めて効果を発揮する。
家庭で劇的な変化を生む裏技として推奨したいのが、「ペーパータオルによる塩もみ脱水」と「芯の乾煎り」だ。芯の部分にひとつまみの塩を振って5分置き、浮き出た水気を拭き取るだけで、鍋の中で余計な水分が出るのを劇的に抑え込める。かつて服部幸應氏が料理教育の現場で説いた「食材の水分を制する者が日本料理の味を制する」という金言は、まさにこの瞬間のためにある。
さらに、白菜から染み出すわずかな甘みを見越した「薄まらない黄金比の割り下」を準備しておきたい。キッコーマンなどの本醸造醤油をベースに、以下の比率で合わせるのが鉄則だ。
・醤油:100ml
・みりん:100ml
・純米酒:50ml
・ざらめ(または上白糖):35〜40g
・昆布出汁:50ml(最小限に抑える)
出汁の量をあらかじめ限界まで絞り、みりんとざらめでしっかりとしたボディを作っておく。こうすることで、白菜から後から染み出る自然のジュースが合流した瞬間に、完璧な濃度へと着地する計算だ。