薄暗い展示室のなか、スポットライトに浮かび上がるその姿は、彫刻というよりは今まさに呼吸を再開した生身の人間に近い。鎌倉時代の仏師・康勝の手による重要文化財「空也上人立像」。やせ細った肋骨、浮き出た血管、擦り切れた草鞋。そして何より見る者を圧倒するのは、わずかに開かれた唇から針金で連なり出る六体の阿弥陀如来小像だ。
「南・無・阿・弥・陀・仏」という六字の名号が、声となって空間に結晶化する瞬間を視覚化するという前代未聞の着想。平安中期の京都で猛威を振るった疫病と飢饉のなか、貴族仏教が救えなかった名もなき民衆のために鉦を叩き、念仏を唱え続けた空也上人の執念が、この像にはそのまま閉じ込められている。
細部に目を凝らすと、首から提げた鉦を打つ撞木(しゅもく)を持つ指先の緊張感、鹿の角をあしらった杖を握る力加減までが生々しい。仏教美術の頂点とされる鎌倉彫刻の写実性が、これほど劇的な形で結実した例は他にない。