野生の山林とは全く異なる音の風景が広がるのが、古都・奈良だ。国の天然記念物として指定されている「奈良の鹿」を保護・管理する一般財団法人奈良の鹿愛護会の知見によれば、都市環境に順応した個体群は、山間部の野生個体とは異なるトーンや頻度で鳴き声を使い分けているという。
観光客が差し出す鹿せんべいを前に発する細い鼻声や、自動車の接近に対する特有の反応など、人間社会との距離感が生み出したユニークな発声行動が観察される。しかし、どれほど人に慣れているように見えても彼らは野生動物だ。特に発情期の秋や出産直後の春先には、警戒音を発した直後に突進してくる事例も後を絶たない。愛護会は、耳を澄ませて彼らのサインを読み取ることの重要性を繰り返し訴え続けている。