本作が多くの観客の胸を激しく揺さぶる最大の要因は、難病モノの定石を根底から覆す衝撃的な結末にあります。膵臓の病で余命いくばくもないヒロイン・山内桜良(浜辺美波)は、退院後に主人公の【僕】(北村匠海)とカフェで会う約束を交わしながらも、その場に現れることはありませんでした。
彼女の命を奪ったのは、病の悪化ではなく通り魔による刺殺事件というあまりにも理不尽で突発的な惨劇でした。原作者の住野よる氏が各種インタビューで語っている通り、この展開には「明日死ぬかもしれないのは病気の人も健康な人も同じであり、すべての人にとって一日の価値は等しい」という痛烈な実存的メッセージが込められています。
桜良が残した闘病日記『共病文庫』と、亡くなる直前に遺した手紙には、親友である恭子への感謝と、【僕】に対する偽らざる想いが綴られていました。「他者と関わることでしか自分の存在を実感できなかった」桜良にとって、一人で完結して凛と立つ【僕】は眩しいほどの憧れであり、手紙には「私は本当は、【僕】になりたかった」という魂の独白が記されていたのです。