本作の配役を巡り、SNS上では幾度となく「声優の無駄遣い」「予算が破綻しているのではないか」という驚きと困惑が語られてきました。しかし、業界内部の取材や音響現場の関係者証言を紐解くと、そこには単なる知名度重視のタレント起用とは対極にある、徹底したクオリティ至上主義が存在します。
音響監督を務める三間雅文氏の演出方針は、業界内でも妥協を許さないことで知られています。炭治郎役の花江夏樹の抜擢も、決して安易な知名度によるものではありませんでした。花江は当時すでに複数の主演経験があったものの、炭治郎役のテープオーディションを勝ち抜くため、喉を張り裂かんばかりの情念を込めて挑戦したと当時の特番インタビューや自著で振り返っています。炭治郎というキャラクターが背負う「過酷な運命に折れない泥臭さ」と「敵をも包み込む底知れぬ慈愛」を体現できる声は、花江夏樹以外にいなかったという制作陣の一致した判断でした。
また、下弦の鬼や序盤の異形の鬼(手鬼役の子安武人、沼の鬼役の木村良平、矢琶羽役の福山潤など)に主役級が連なる理由には、作品のテーマ性が深く関係しています。『鬼滅の刃』における鬼は、単なる倒されるべき悪漢ではなく、生前は救われなかった哀しい人間です。死の間際、わずか数十秒の回想シーンで視聴者の心を激しく揺さぶり、涙を誘うためには、キャリアに裏打ちされた圧倒的な演技密度が不可欠でした。結果として「豪華にしようとした」のではなく、「物語の真実味を担保するために選び抜いた結果、自然と豪華になった」というのがキャスティングの舞台裏です。