1986年8月に発表された楽曲『浅草キッド』(作詞・作曲:ビートたけし)は、単なる芸人の自伝ソングの枠を超え、日本のポピュラー音楽史に残る青春哀歌として語り継がれています。
歌詞冒頭に登場する「仲見世の煮込みしかないくじら屋で 男が売れない油を売っていた」という一節。この「くじら屋」のモデルとなったのは、浅草六区の路地裏に現存する名店「捕鯨船(ほげいせん)」です。当時、金配りの良かった深見師匠に連れられて通った店であり、金がない若手時代には、店主の温情で煮込みと酒を振る舞われながら、まだ見ぬ未来を語り合っていました。
また、作品を象徴する名言「バカヤロー、芸人なら普段から格好つけろ」「芸で飯を食うってのは、客に媚びることじゃねえ」という深見師匠の教えは、今もたけしの美意識として息づいています。深見師匠は左手の薬指と小指を事故で失っていましたが、それを隠すどころか仕込み煙草の小道具にして笑いに変えるなど、「日常のすべてを芸の粋(いき)へと昇華させる」生き様を貫いていました。
「夢はすてたと言わないで 他にあてなき二人なのに」という切ないフレーズには、ストリップ劇場の合間に演じる幕間コントでスベり倒し、冷たい客席の視線に晒されながらも、互いの才能だけを信じて舞台に立ち続けた相棒への想いが凝縮されています。