博物館の展示ケースや模型を見るだけでは分からない、竪穴住居の真の居住性とはどのようなものだったのか。各地の考古学研究施設や大学の研究室が実施した「復元竪穴住居での長期宿泊・生活実験」の手記やレポートを精査すると、生々しいリアリティが浮かび上がってきます。
実験に参加した研究者たちの手記によると、誰もが口を揃えて驚嘆するのが「冬の暖かさと静粛性」です。真冬の外気温がマイナス5℃まで冷え込む夜であっても、中央の炉で薪を熾火(おきび)状態にしておくだけで、室内温度は15℃〜18℃前後をキープ。厚い茅と土に囲まれているため外の風切り音が一切入らず、現代の遮音サッシ並みの静けさに包まれるといいます。
一方で、現代人が耐えがたい弱点として挙げられるのが「日中の暗さ」と「定期的なメンテナンスの過酷さ」です。窓が存在しないため、出入口の覆いを外さなければ昼間でも手元が見えないほどの薄暗さとなります。また、湿気がこもると土壁にカビが生えやすく、最低でも数日に一度は炉で火を焚いて内部を乾燥させ続けなければなりません。
これら現場検証から導き出されるメリットとデメリットをまとめると、以下のようになります。
【竪穴住居のメリット】
- 驚異的な断熱・蓄熱性:地中熱と極厚の茅葺き屋根により、夏は外気より涼しく、冬は暖房効率が極めて高い。
- 耐風性と耐震性の高さ:重心が低く、屋根が地面近くまで傾斜しているため、台風などの暴風を軽くいなし、地震の揺れにも強い。
- 資材調達の容易さ:木材、土、茅、蔓(ツル)など、周辺の自然環境から手に入る材料だけで金物を使わずに建設可能。
【竪穴住居のデメリット】
- 浸水と湿気の脆弱性:台風や大雨の際、周囲の排水溝(周溝)が溢れると床に水が溜まり、泥沼化するリスクがある。
- 採光不足と換気の手間:開口部が極小のため昼夜を問わず暗く、火を焚く際は煙の対流を常に管理する必要がある。
- 定期的な葺き替えの重労働:煙で防腐処理をしていても、屋根の茅は15〜20年程度で限界を迎え、集落総出での葺き替え工事が必須。