なぜこれほど多くの人が「あれもしたい」を「あれも欲しい」と記憶違いしてしまうのでしょうか。音楽評論家やメディアディレクターの分析、そしてリスナーの心理傾向を検証すると、主に3つの構造的な要因が浮かび上がってきます。
第1の要因は、「日常語としての消費心理と語感の近さ」です。現代の消費社会において、私たちは日常的に「あれが欲しい、これも欲しい」という物欲フレーズを無意識に多用しています。音数としても「あれもしたい(6音)」と「あれもほしい(6音)」はモーラ数が完全に一致し、母音の響き(AIとOI)も近いため、脳内の長期記憶から呼び出す際に、より日常で馴染みのある「欲しい」へと自動補正されてしまうのです。
第2の要因は、「バラエティ番組やパロディ表現の影響」です。1990年代から2000年代にかけて、お笑い芸人やバラエティ番組のコントなどでブルーハーツのパロディが演じられる際、物欲や強欲さをコミカルに表現するネタとして「あれも欲しい、これも欲しい」と故意に改変されて歌われる場面が多々ありました。これがテレビ視聴者の潜在記憶に強く刷り込まれた背景があります。
第3の要因は、「人間が抱く所有欲と自己実現欲求の混同」です。心理学において「Having(持つこと)」と「Doing/Being(為すこと・存在すること)」は明確に区別されますが、欲望の総量が爆発するような曲の熱量に触れた際、多くの人は無意識に自分自身の日常的な欲望(=物欲・出世欲などの所有欲)を楽曲のイメージに投影してしまいます。