花山薫の代名詞であり、数々の強敵を恐怖の底に叩き落としてきた必殺技が「握撃」です。この技の恐ろしさは、単に相手の骨を握り潰す「骨折」にとどまらず、対象部位の肉と皮膚が風船のように外側へ向けて大爆発を起こす点にあります。
作中で詳細に語られる花山薫の握撃の仕組みは、極めて理に適った流体力学の応用に基づいています。
人間の腕には太い動脈と静脈が通り、筋肉組織の内部には大量の血液が循環しています。花山が相手の前腕や二の腕を円周上から隙間なく、かつ超高圧で締め上げた瞬間、血流の出口と入口が完全に遮断されます。その状態でさらに握力を極限まで高めていくと、掴まれた部位の血液と組織液は行き場を失い、密閉されたシリンダー内のピストン圧縮と同じ状態に陥ります。
逃げ場を失った体液の内圧は数気圧から数十気圧へと跳ね上がり、耐荷重の限界を迎えた血管壁、筋膜、そして表皮が「内側からの爆発」を引き起こして破裂します。医学界で知られる「急性コンパートメント症候群(区画症候群)」を、外部からの超人的な握力のみで瞬間的に引き起こす現象と言い換えてもよいでしょう。打撃の衝撃波で組織を壊すのではなく、生体内の圧力を利用して肉体を自壊させるという発想こそ、刃牙シリーズが生み出した最も残酷で説得力のある架空格闘術の一つです。