マルベリーの赤い実が熟すにつれて濃紺、そして漆黒へと色を変えていく生理現象に対し、古代の人々は息を呑むような物語を与えました。それが、古代ローマの詩人オウィディウスが著書『変形譚(メタモルフォーゼス)』第4巻に記録した、「ピュラモスとティスベ」の悲劇です。この伝説こそが、ウィリアム・シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』の直接的な原典となったことでも知られています。
舞台は古代バビロニア。隣同士の家に生まれ、壁の裂け目越しに密かな愛を育んでいた美青年ピュラモスと美少女ティスベは、家同士の激しい対立に阻まれ、駆け落ちを決意します。密会の場所に選ばれたのは、冷涼な泉のほとりに立つ「純白の実をつける桑の木」の根元でした。
夜の帳が下りる中、約束の場所に先着したティスベの前に、獲物を喰らったばかりで口元を血で汚した雌ライオンが現れます。恐怖に駆られたティスベは近くの洞窟へ逃げ込みますが、その際に身にまとっていたベールを落としてしまいました。ライオンは落ちていたベールを血まみれの口で噛み裂き、立ち去ります。
遅れて到着したピュラモスが目にしたのは、獣の足跡と、無惨に引き裂かれ血に濡れた愛するティスベのベールでした。「私の遅参が君を死に追いやった」と絶望したピュラモスは、腰の短剣を抜き自らの胸を深々と刺し貫きます。噴き出した鮮血は高く飛び散り、桑の白い果実を真っ赤に染め上げ、地下の根へと染み渡っていきました。
恐れを克服して洞窟から戻ったティスベが見たのは、変わり果てた姿で息絶えようとする恋人の姿でした。彼女は泣き崩れ、「死ですら私たちを引き離すことはできなかった。せめて同じ墓に眠らせてほしい。そして桑の木よ、私たちの非業の死の証として、永遠に暗い色の実をつけ続けておくれ」と祈りを捧げ、ピュラモスの短剣の上に自ら倒れ込み、命を絶ったのです。
神々はこの痛切な嘆願を聞き届け、桑の実は熟すと鮮血のような赤から、死を悼むかのような深黒へと変化する性質を持つに至りました。この凄惨極まる伝承こそが、マルベリー花言葉の怖い理由の原典であり、「ともに生き延びる」「彼女のすべてが好き」「悲哀」という激しい愛の言葉が生まれた揺るぎない背景なのです。