本作がファンから「単なるご都合主義の転生ファンタジーではない」と評される決定打となったのが、第12巻・転移迷宮深部における父親パウロ・グレイラットの戦死です。
パウロの死亡理由は、迷宮の主である魔石生命体「マナタイトヒュドラ」との決死戦において、首を切り落とされたヒュドラの不意打ちから息子ルーデウスを突き飛ばして身代わりとなり、上半身と下半身を切断されたことでした。ルーデウス自身も左腕を失う重傷を負い、辛うじて母親ゼニスを救出したものの、彼女は記憶と自我を失った廃人同然の状態となっていました。
ネット上の掲示板やSNSでは当時、「父親が本当に死ぬとは思わなかった」「主人公の腕がもぎ取られる展開に戦慄した」といった衝撃の声が殺到しました。著者の理不尽な孫の手氏は、過去の対談やあとがきにおいて「異世界であっても、選択には常に代償が伴い、失ったものは二度と戻らない現実を描きたかった」という旨を述懐しています。
作中で退場を余儀なくされた主要な死亡キャラクターの軌跡を振り返ると、世界の過酷さがより鮮明に浮き彫りとなります。
- パウロ・グレイラット:転移迷宮編で息子の盾となり戦死。不器用な父親としての責任を命懸けで果たした。
- サウロス・ボレアス・グレイラット:フィットア領転移事件の責任を不当に着せられ、政治的謀略により処刑。
- ギース・ヌカディア:実はヒトガミの使徒。ルーデウスとは旅の仲間でありながら、信仰と忠誠のために最後の敵として立ち塞がり敗北・死亡。
- 冥王ビタ:ヒトガミの使徒として幻覚魔法でルーデウスの精神を追い詰めるも、オルステッドの助力を受けたルーデウスに討伐される。
- ルーデウス(老デウス):ヒトガミの謀略によってロキシーを失い、復讐のために過去へ跳躍してきた別時間軸のルーデウス。日記を青年の自分に託して絶命。
どれほど強大な魔力を持っていようと、すべての人間を救うことはできない。この痛切なリアリズムこそが、読者に本物の緊張感を与え続けています。