「自分は中学校でみっちり練習させられたのに、今の子どもたちは筆記体を読めない」という話を耳にして驚く人は少なくありません。日本の英語教育において、筆記体は長らくアルファベットの基本として指導されてきましたが、転換点となったのは2002年に施行された中学校学習指導要領です。
この改訂により、英語教育の方針は「文法・筆記中心」から「コミュニケーション能力重視」へと大きく舵を切りました。授業時間数が限られる中で、ブロック体と筆記体の両方を教える負担を減らし、実用的な対話力を伸ばす目的から、筆記体は必修項目から「生徒の負担に配慮しつつ配慮してよい(扱わなくてもよい)」という選択扱いに格下げされました。その結果、全国の教育現場から筆記体の授業が実質的に姿を消すことになったのです。
世界的にも、英語圏における筆記体の歴史と現在の状況は日本と似た軌跡をたどっています。アメリカでは2010年に導入された教育基準「コモンコア」によってキーボード入力が重視され、筆記体の指導義務が撤廃された州が相次ぎました。しかし近年、歴史的公文書が読めなくなる懸念や手書きがもたらす認知機能への好影響が見直され、カリフォルニア州など複数の州で筆記体教育の復活義務化が進むなど、見直しの機運も生まれています。