なぜここまで「音楽業界で活躍している」「音響エンジニアである」という説が根強く信じ込まれてしまったのか。そこにはネット特有の情報のねじれが存在します。
第一の盲点は、昭和から平成にかけて活躍した他の大物芸能人二世との混同です。同時期に活躍したロックスターや名優の子息たちが、相次いでミュージシャン、俳優、あるいは音響スタッフや映像クリエイターとして業界入りした事例が多数ありました。そうした二世たちのキャリアと「ジュリーの長男」という偶像が、ネット上のまとめ記事やQ&Aサイトで無意識に重ね合わされ、あたかも既成事実のように拡散されていきました。
第二の盲点は、「芸能人の子供=何らかの形で親の業界に関わるはず」という大衆の無意識のバイアスです。沢田研二という不世出のアイコンが放つ輝きがあまりにも強烈であるため、「普通に会社勤めをしている」という素朴な現実を受け入れがたく、音響エンジニアやディレクターといった「裏方の専門職」という絶妙なリアリティを持つ職業を当てはめてしまったと考えられます。
しかし、母・伊藤エミさんは引退後、自らの過去をひけらかすことなく、一人氏に対して「芸能人の息子」という特権意識を持たせない教育を徹底しました。小学校から大学に至るまで、芸能活動とは無縁の一般的な教育環境を選び抜いた結果、彼はショービジネスの光と影に惑わされることなく、地に足の着いた人生の選択肢を手に入れたのです。