サンのバックボーンにおいて最も衝撃的なのは、その凄惨な生い立ちと過去です。公式設定資料集『ロマンアルバム もののけ姫』や当時の制作インタビューによると、サンはもともとタタラ場周辺の森を開拓しようとした人間たちの赤子でした。森の主である犬神モロの君が怒り狂って人間を襲撃した際、恐れをなした人間の親が自らの命惜しさに赤子(サン)をモロの君の足元へ投げ捨てて逃亡したという過酷な事実が記録されています。
モロの君はその赤子を喰い殺すことなく、自らの娘として育てる決断を下しました。しかし、モロの君自身が劇中で「人間でもなく山犬でもない、哀れで醜い可愛い我が娘だ」と言い放つ通り、サンの存在は常に二つの世界の間で引き裂かれ続けています。親から捨てられた生贄というトラウマは、彼女の強烈な人間嫌いの理由の根源となっており、人間でありながら人間社会を憎悪するという決定的なアイデンティティの分裂を生み出しました。
宮崎駿監督は絵コンテやスタッフ向け設定資料において、サンの年齢設定を「15歳」と定めています。15歳という多感かつ精神的な自立を迎えつつある時期にアシタカ(17歳)と出会ったことが、彼女の内面に「森を守る戦士」としての義務感と、「一人の人間としての目覚め」という激しい葛藤をもたらす契機となりました。