「なぜ、東京から1時間以上かかる坂東市でわざわざマッサージを受けるのか?」と疑問を抱く人は少なくない。その答えは、坂東市が歩んできた独自の多文化共生の歴史にある。
坂東市(旧岩井市周辺)は、1990年代以降、近郊農業や食品加工、製造業などの担い手として多くの外国人住民を受け入れてきた。なかでもタイ出身者のコミュニティは強固で、本国の家庭料理を振る舞う飲食店や日用品店とともに、生活に欠かせない伝統医療文化としてタイ古式マッサージが地域に根づいた経緯を持つ。
都心の商業ビルに入る一般的なサロンでは、短期間の研修を受けた日本人スタッフがマニュアル通りにほぐすケースも散見される。対して、坂東市に集まるセラピストの多くは、本場タイの総本山「ワットポー」や「チェンマイ」の専門スクールで体系的な技術を修得したベテランたちだ。彼女たちにとってタイマッサージは単なるリラクゼーションではなく、「セン」と呼ばれるエネルギーラインを刺激し、全身の血流とリンパの循環を促す伝統的ヘルスケアそのものである。
「観光客向けにアレンジされた当たり障りのない施術」ではなく、本国の街角で長年培われてきた「しっかりとした圧とダイナミックなストレッチ」をそのまま体感できる。この圧倒的な技術的深度こそが、都心のリラクゼーションに物足りなさを感じていた層を虜にしている最大の理由だ。