「なぜジーンズの裾上げは数百円なのに、ペラペラのTシャツの裾を切るだけで2,000円以上もするのか」という疑問は、縫製現場の技術的構造を理解すると氷解します。最大の理由は、生地の「織り」と「編み」の違い、そして使用するミシンの特殊性にあります。
ジーンズやスラックスなどの布帛(ふはく)生地は縦糸と横糸が交差する「織物」であり、生地自体に大きな伸縮性はありません。そのため、一般的な「本縫いミシン(直線ミシン)」を使い、数分で裾を三つ折りにして縫い上げることができます。
対してTシャツは、1本の糸をループ状に編み立てた「ニット(天竺編み)」です。着用時や脱ぎ着の際に布地が縦横へ激しく伸び縮みします。もしTシャツの裾を通常の直線ミシンで縫ってしまうと、一度頭を通したり身体を動かして裾が引っ張られた瞬間に、糸に遊びがないため「ブチブチ」と音を立てて縫い糸が破断してしまいます。
ニットの伸縮に追従させるためには、表面には2本(または3本)の平行な直線が現れ、裏面は網目状のチェーンステッチを形成するカバーステッチミシン(扁平縫いミシン)が不可欠です。このステッチは裏糸がジグザグに伸縮を吸収するため、生地が伸びても糸が切れません。
しかし、カバーステッチミシンは機材自体が高価なうえ、使用する糸(ウーリー糸など)のテンション調整が極めて繊細です。職人が生地の厚みや伸び具合に合わせて試し縫いを繰り返し、糸調子を合わせる工程が必要となるため、パンツの裾上げに比べて拘束時間が3〜4倍に跳ね上がります。裁断カバーステッチ料金として2,000円前後の対価が設定されるのは、高度な専門機材と熟練工の手間賃を反映した正当な帰結なのです。