大腸がんに関するネット情報の中で、最も危険な誤解の一つが「血便が出ていないなら、お腹がゴロゴロ鳴っていても大腸がんの可能性は低い」という思い込みです。この言説は、消化管の解剖学的知識を欠いた典型的な盲点と言わざるを得ません。
大腸がんの出血が目に見える形で現れるかどうかは、「がんが発生した部位」によって劇的に異なります。
- 左側結腸がん(下行結腸・S状結腸・直腸):肛門に近いため、腫瘍から出血した血液が酸化されず、鮮紅色〜暗赤色の血便として視認されやすい。便の通過障害による腹鳴や便の狭小化も早期から自覚されやすい特徴があります。
- 右側結腸がん(盲腸・上行結腸・横行結腸):腸管の内径が広く、内容物も液状であるため、腫瘍がかなり大きく育つまで便の通過障害が起きにくい。さらに、病巣から出血しても長い大腸を通過する間に便と混ざり合い、酸化されて黒ずむため、肉眼では出血に全く気付けません。
つまり、右側結腸にがんが潜んでいる場合、目に見える血便は出ず、じわじわと続く微量出血によって「原因不明の貧血・だるさ」や「なんとなく右腹部がゴロゴロ鳴る・重い」といった曖昧な違和感しか生じないのです。また、自治体の住民検診で広く用いられる便潜血検査(免疫法)は優れたスクリーニングですが、早期大腸がんの約50%、進行大腸がんでも約10〜15%で偽陰性(見逃し)が生じるという統計的事実があります。「便潜血が陰性だったから」「肉眼で血便が見えないから」といって、腹鳴や便通異常を放置してよい理由には一切なりません。