「夫が赤ちゃんに触れる前に手を洗わなかっただけで、全身の血が逆流するような怒りを覚えた」「義母が『抱っこさせてね』と腕を伸ばしてきた瞬間、我が子を奪われるような恐怖と生理的な拒絶反応が走った」――これは決して特別な事例ではなく、産褥期の女性から数多く報告される典型的な体験談です。
医学的に「ガルガル期」という独立した病名が存在するわけではありません。しかし、産婦人科やメンタルヘルスの現場では、産褥期の急激な内分泌環境の変化に伴う「母性防衛本能の過剰亢進」として広く認知されています。最大の要因は、妊娠・出産に伴う劇的なホルモンバランスの変化です。出産を終えた瞬間、妊娠維持を担っていたエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が数百分の一へと急落します。この落差は、更年期における数年分のホルモン変動がわずか数日間のうちに生じるほどの猛烈な衝撃を母体にもたらします。
これと同時に、母乳分泌や愛着形成を促進するホルモンであるプロラクチンが脳下垂体から大量に放出されます。プロラクチンには、我が子を守るための「攻撃性」や「排他性」を刺激する作用が備わっています。自力では生きていけない無力な新生児を外敵や感染症から守るため、母親の脳は無意識のうちに警戒レベルを最大に引き上げているのです。つまり、ガルガル期の原因は母親の精神的な甘えなどではなく、太古から人類が生き残るために遺伝子へ刻み込んできた防衛システムの誤作動にほかなりません。