創作や符字の疑いが拭えない84画の「たいと」と一線を画し、学術的な辞書編纂史において確固たる地歩を築いているのが64画の漢字テツの由来です。この文字は、漢字1字で16画を持つ「龍」を正方形に4つ配置した構造(𪚥)を持ちます。
梁の時代(543年)に編纂された『玉篇』や、清代の文字規範である『康熙字典』には、「テツ(音:テチ)」として明確に収録されています。その字義は「言葉が多い」「多言でおしゃべりなさま」という意味です。なぜ龍が4匹集まると「おしゃべり」になるのかという点について、古代中国の言語観では、神秘的で強大無比な龍が群がり騒ぎ立てる圧倒的な喧騒を言語行動に擬えたものと伝えられています。
文字発達の最多画数漢字の歴史的経緯を辿ると、漢字は時代が下るにつれて「画数を増やして細分化する時期」と「可読性向上のために簡略化する時期」を往復してきました。64画の「テツ」や、同じく64画を誇る「セチ(興を4つ並べた字:𠔻)」は、漢字が象形・会意の論理を極限まで押し広げた文字実験の結晶です。歴史的辞書に採録されながらも日常言語として定着しなかった事実は、視覚伝達ツールとしての限界点を物語っています。