解剖学界で古くから議論の的となっているのが、第三腓骨筋の欠如割合です。「足の筋肉が1本足りない」と聞くと先天的な異常のように受け止められがちですが、人類進化の視点に立つと全く異なる景色が見えてきます。
国内外の解剖学研究データによると、第三腓骨筋が先天的に存在しない(欠損している)割合は、人種や地域によって約5%から17%程度のばらつきがあり、日本人を対象とした肉眼解剖学調査でも約10%前後の欠如が報告されています。つまり、およそ10人に1人は生まれつきこの筋肉を持っていません。
四足歩行の動物や類人猿には第三腓骨筋が基本的に見られず、直立二足歩行を確立したヒトにほぼ特有の筋肉です。平坦でない地面を二足で歩行する際、足の裏全体を接地させ、かつ歩行周期の遊脚期(足を前に振り出す瞬間)につま先を持ち上げて内反捻挫を防ぐために、長趾伸筋から分岐して獲得された「最も進化した新しい筋肉」の一つと考えられています。
筋肉が存在しないからといって歩行や日常生活に深刻な障害が出るわけではありません。周囲の長趾伸筋や長・短腓骨筋がその機能を代償するためです。しかし、急激な切り返しを要求されるサッカー、バスケットボール、あるいは路面が不安定なトレイルランニングなどでは、第三腓骨筋を生まれつき欠如しているアスリートと持っているアスリートの間で、足関節外側の動的スタビリティ(動的安定性)にわずかな負荷配分の差が生じることが整形外科医やトレーナーの間で指摘されています。