残業代請求を検討する際、ネット上に散見される不正確な情報を鵜呑みにして権利行使を諦めてしまうケースが多々見られます。現場の労働者が特に陥りやすい3つの盲点を正しく把握しておく必要があります。
第1の誤解は、「役職手当が支給されている以上、すべての残業代は手当で相殺されている」という思い込みです。会社が「役職手当には〇時間分の定額残業代が含まれる」と主張する場合であっても、雇用契約書や就業規則において「何時間分の時間外労働に相当するのか」が明確に区分されていなければ、定額残業代の合意自体が無効と判断されます。仮に有効であったとしても、実際の労働時間が想定時間を超えている場合、企業側はその役職手当と実残業代の差額を追加支給しなければなりません。
第2の盲点は、残業代請求の消滅時効に関するカウントダウンです。労働基準法の改正経過措置により、賃金請求権の消滅時効期間は従来の2年から「3年」へと延長されています。注意すべきは、この時効が毎月の給与支給日ごとに順次到来し、何もしなければ過去の未払い賃金が1ヶ月分ずつ永久に消滅していくという事実です。多忙を理由に請求を先送りにしている間にも、数十万円単位の正当な債権が日々失われている計算になります。
第3の誤解は、「在職中に残業代請求を行えば即座に解雇される」という恐れです。労働基準法第104条では、労働者が労働基準監督署への申告や権利行使を行ったことを理由とする解雇その他の不利益な取り扱いを厳格に禁止しています。不当解雇や不利益変更を行った企業は刑罰の対象となるため、法的手続きを冷静かつ論理的に進める限り、労働者側の立場は法律によって強固に守られています。