日常的に使われている「痛いの痛いの飛んでいけ」というフレーズですが、その明確な発祥時期を記した古代文献は存在しません。しかし、民俗学や国文学の研究を紐解くと、古代日本から続く「言霊(ことだま)信仰」と民間呪術が深く関係していることが分かります。
古来、日本人は言葉そのものに霊的な力が宿り、発した言葉通りの現実が引き寄せられると信じてきました。災いや病、痛みを「別の場所へ移す(祓う)」という発想は、神道の「大祓(おおはらえ)」や形代(かたしろ)に穢れを移して川に流す儀礼とも通底しています。
さらに、医療行為を指す「手当て」の語源も、まさに患部にそっと手を添える行為そのものから生まれました。道具や医薬品が乏しかった時代、痛む部位に手をかざし、触れながら痛みの退散を祈願した素朴な民間療法こそが、このフレーズの直接的なルーツといえます。