処刑当日の目撃証言や公的文書によると、火刑台に縛り付けられたジャンヌ・ダルクが息絶える直前まで繰り返し叫んでいたのは、主の御名「イエス!」という言葉だった。足元から這い上がる猛火と煙の中、彼女は目の前に掲げられた十字架を視線で捉え続け、呼吸が途絶えるその瞬間までその名を連呼していたと伝えられる。恐怖と苦痛が渦巻く極限状態にあって、その叫びは広場を埋め尽くした大勢の群衆の耳に確かに届いていた。
2026年に発表された歴史学の最新研究では、当時のルーアン異端審判所が残した膨大な宗教裁判記録の再解析が行われ、この叫びが持つ真の意味が掘り下げられた。研究チームは、彼女が叫んだ「イエス」が単なる苦痛による悲鳴や死の間際の神への縋りつきではなく、審判所が突きつけた異端の烙印に対する最大の不服申し立てであり、自身の正当性を神に直接訴える政治的・宗教的アピールであったと指摘する。カトリック教会の権威を背景にした審判員たちの目論見に対し、彼女は最期のひと息まで己の信仰の潔白を主張し続けたのだ。
さらに、処刑に立ち会った修道士の記録には、彼女が炎の中で「私が受けた啓示は決して騙しではなかった」と口にしたとする証言も遺されている。火刑台の上で見せた毅然たる態度は、執行に当たったイングランド兵や審判に関わった聖職者たちにさえ強烈な動揺を与えた。記録によれば、処刑後に「我々は聖女を殺してしまった」と涙を流し落胆する関係者も少なくなかったという。記録に刻まれたひと言の裏には、歴史を揺るがす隠された真実が脈打っていた。