極限の緊張状態を演じ切った主要出演者たちのバックボーンを紐解くと、それぞれが歩んできた特異なキャリアが、役柄への深いアプローチを可能にしたことが分かります。単なるスター性にとどまらない、泥臭い下積みや舞台演劇で培われた身体性が随所に光っています。
主人公・真山栞役を務めたのは、繊細な感情の機微を演じさせたら同世代で右に出る者はいないと評される実力派女優(28歳)です。10代前半で小劇場演劇のオーディションを突破して芸能活動を開始した彼女は、本名を明かさずに挑んだインディーズ映画で頭角を現しました。当時の特番インタビューにおいて彼女自身が語った「現場でカメラの前に立つ瞬間は、自分自身の皮を一枚ずつ剥いでいくような痛みを伴う」という告白は、本作で見せた鬼気迫る自傷的な演技の原点として語り継がれています。長年培われた舞台発声と微細な視線の揺らぎが、栞というキャラクターの精神的幽閉状態に生々しい説得力を与えました。
一方、物語の絶対的な重心として圧倒的な威圧感を放った母親・律子役を演じたのは、芸歴35年を超えるベテラン女優(54歳)。彼女の経歴は極めて異色であり、元々は名門劇団の旗揚げメンバーとしてアングラ演劇の最前線で身体表現を追求してきた本格派です。平成初期にはトレンディドラマの脇役としてお茶の間に浸透しましたが、自著の手記では「消費されるアイコンとしての自分に絶望し、再び表現の本質を問い直すために海外の演劇学校へ身を投じた」と振り返っています。狂気と慈愛が紙一重で同居する母親像は、彼女が長年の研鑽で培った人間洞察の深さがあって初めて結実した造形でした。
さらに、母娘の間に割って入る婚約者・拓己役を演じた注目株の俳優(31歳)は、大学で社会心理学を専攻した後にモデルを経て俳優へ転身した異例の知性派です。公の記者発表で見せた理知的かつ落ち着いた受け答えのニュアンスそのままに、劇中でも「善意の第三者が知らず知らずのうちに毒親の罠に巻き込まれていく過程」を冷徹に体現しました。彼らの年齢、出自、そして歩んできた表現の道筋が絶妙な化学反応を起こしたことが、本作のキャスティングにおける最大の勝利と言えます。