タコの酢の物で最も頻繁に寄せられる失敗が「タコの食感が硬い」ことと「食べる頃には水分が出て全体が薄まる」という現象です。これらは調理科学に基づいた適切な下処理によって完全に防ぐことができます。
市販の茹でタコ(主にモーリタニア産やモロッコ産のマダコ、あるいは国産の真ダコ)は、加熱によって筋肉繊維が強く収縮しています。タコを柔らかく噛み切りやすくするためには、包丁の入れ方が決定打となります。直角に厚切りにするのではなく、包丁を寝かせて刃を波打たせるように引く「波刃そぎ切り(削ぎ切り)」を施すことで、表面積が増えて繊維が断ち切られ、合わせ酢の馴染みも劇的に向上します。吸盤の周りや皮の厚い部分には、深さ1ミリ程度の細かい隠し包丁を入れるのが理想的です。
生タコから調理する場合は、下処理の段階で大根おろしで揉み洗いするか、すりこぎで全体を軽く叩いて繊維をほぐした上で、番茶やほうじ茶を入れた熱湯でさっと短時間(1〜2分程度)茹で上げると、驚くほど柔らかく発色の良い仕上がりになります。
もうひとつの失敗要因である「水っぽさ」を防ぐには、副材料の脱水が欠かせません。薄切りにしたきゅうりは塩分濃度1.5〜2%(きゅうり1本に対して塩小さじ1/3程度)で塩もみし、10分置いて浸透圧で水分を十分に出した後、清潔なキッチンペーパーに包んで両手で水分を限界まで絞り切ります。タコ自体も表面のドリップをペーパーで完全に拭き取ってから和えることが、時間が経っても味がぼやけない必須の工程です。