日本全国に数ある天日塩の中でも、「田野屋塩二郎」の希少性は群を抜いています。一般的な塩作りとは一線を画し、注文から手元に届くまで数年を要する理由は、単なる生産量の少なさだけではありません。
最大の要因は、使う食材や料理人の哲学に合わせて塩の味・粒度・溶ける速度を設計する「オーダーメイド塩」の存在です。佐藤京二郎氏は、肉料理用、白身魚用、あるいはデザート用など、相手が求める料理の特性に応じて100種類以上もの塩を作り分けます。海水に含まれる約80種類以上のミネラルバランスを、結晶化の段階でミリ単位の手作業によってコントロールするという、常識外れの技術が注ぎ込まれているのです。
1日中ハウスに張り付き、体感温度50度を超える過酷な環境下で海水を撹拌し続ける作業は、機械化が一切不可能。1つの木箱から採れる塩の量は極めて限られており、年間の総生産量にも明確な限界があります。世界の三つ星レストランのシェフや名だたる料理店からの指名買いが絶えないため、一般向けの生産枠が極端に逼迫し、結果として「数年待ち」という伝説的なステータスが生まれています。