スピリット・オブ・エクスタシーと並ぶもうひとつの象徴が、創業者のチャールズ・ロールズとヘンリー・ロイスの頭文字を重ね合わせた「RR」のモノグラムロゴです。このロゴの色について、インターネット上や愛好家の間では長年、次のようなドラマチックな俗説が語り継がれてきました。
「1910年に航空事故で他界したロールズ、あるいは1933年に死去したロイスの死を悼み、喪に服す意味でロゴの背景色を赤から黒に変更した」
しかし、ロールスロイスの公式社史および関係資料が示す事実は異なります。ロゴのカラーが赤から黒へ移行したのは1933年のことですが、これはヘンリー・ロイス自身が存命中に下したデザイン上の決定でした。
当時、超高級車のボディカラーは顧客のビスポーク(完全特注)によって多彩を極めていました。その中で、赤い「RR」エンブレムは特定のボディカラー(特にグリーンやブルー、ダークトーンなど)と組み合わせた際に視覚的なミスマッチを引き起こすことが問題視されていたのです。生前、徹底した完璧主義者として知られたヘンリー・ロイスは、「あらゆるボディカラーに最もエレガントに調和し、格式を損なわない色」として黒のモノグラムへの変更を指示しました。ロイスが息を引き取ったのは、その変更が適用された直後だったため、後世の人々が感傷的な物語として「追悼説」を結びつけ、それが定説のように広まってしまったというのが真相です。