責任の重さや人命を預かる重圧に対して「給料が割に合わない」と語られる最大の理由は、バス事業特有の収益構造と労働時間管理の仕組みにあります。
第一の構造的要因は、「運賃の上限認可制」と「固定費の高騰」による利益率の圧迫です。公共交通機関である路線バスは、地域住民の移動手段を維持するために運賃を自由に引き上げることが難しく、燃料費(軽油価格)の高騰やEVバス導入に伴う設備投資、車両維持費の増大を容易に転嫁できません。その結果、人件費へ配分できる原資が構造的に制限されてきました。
第二の要因は、拘束時間の長さと実労働時間の乖離を生む「中休(ちゅうきゅう)勤務」の存在です。朝の通勤・通学ラッシュと夕方の帰宅ラッシュに対応するため、昼間の数時間を無給の休憩時間(または待機時間)として営業所で過ごすダイヤ編成が多く見られます。1日の拘束時間が13〜15時間に及ぶにもかかわらず、給与計算の対象となる実労働時間は8時間前後にしかならず、「1日中会社に拘束されているのに手取りが増えない」という強い不公平感に直結していました。
さらに、ドライバーの時間外労働に年間960時間の上限が設けられたことで、従来のように「過密ダイヤをこなして残業代で稼ぐ」手法が完全に封じられました。基本給の引き上げを行えない事業者では、残業代の減少によって現場の手取りが目減りし、離職を招くという悪循環も一部で生じています。