元伊勢と呼ばれる神社群と現在の伊勢神宮を比較すると、歴史の進展に伴う祭祀形態のドラスティックな変化が浮き彫りになります。もっとも顕著な違いは「建築様式」と「信仰の性格」の2点です。
現在の伊勢神宮(内宮・外宮)は、直線的で装飾を排した「唯一神明造(ゆいいつしんめいづくり)」と呼ばれる厳格な建築様式を誇り、20年に一度の式年遷宮によってその姿を完全に更新し続けています。他方、元伊勢に数えられる各地の古社には、伊勢神宮が成立する以前の原初的な社殿形態が保存されています。
たとえば京都府福知山市大江町の元伊勢内宮・皇大神社では、神社の鳥居としては日本最古の形式とされる「黒木鳥居(くろ木のとりい)」が建てられています。これは樹皮を剥かないクヌギの丸太をそのまま組み合わせたもので、神社建築が自然の巨木信仰から人工的な建造物へと移行する過渡期の姿をリアルに伝えています。また前述の奈良・檜原神社のように社殿すら持たない神社もあり、自然物そのものに神が宿ると信じられていたアニミズムの息吹を感じ取ることができます。
もう一つの決定的な違いは信仰のあり方です。伊勢神宮は律令国家体制のもとで「私幣禁断(しへいきんだん)」、すなわち天皇以外の個人的な祈願やお供えを禁じる国家最高峰の聖域として位置づけられました。これに対し元伊勢の神社群は、神霊が伊勢へ去った後も地域豪族や土地の共同体によって手厚く祀られ続けました。朝廷の国家祭祀と、土着の産土神信仰が融合しながら独自に発展した点に、伊勢神宮本殿にはない元伊勢ならではの民俗的深みがあります。