芸能界やエンターテインメントシーンにおいて、マルファン症候群という病名が一般層にまで広く知れ渡る決定的な転機となったのは、シンガーソングライター・米津玄師氏の率直な告白でした。音楽雑誌『ROCKIN'ON JAPAN』(2015年11月号)のロングインタビューにおいて、米津氏は自身の身体的特徴や幼少期からの違和感に触れるなかで、マルファン症候群であると診断された事実を明かしています。自らの特異な骨格や身体性を受け止め、唯一無二の表現力へと昇華させてきた彼の生き様は、多くのファンや同じ境遇の当事者に深い共感と勇気を与えました。
一方で、検索エンジンのサジェストに登場する「マルファン症候群 芸能人 一覧」の大半は、医学的根拠を欠いた憶測の産物に過ぎません。代表的な例としてネット上で頻繁に名前が挙げられる著名人には、以下のような顔ぶれが存在します。
お笑いコンビ・アンガールズの田中卓志氏は、身長188cm・極めて細身という独特のプロポーションから長年噂の対象とされてきました。しかし、田中氏本人がマルファン症候群を公表した事実は一切なく、バラエティ番組等で定期的に受けている健康診断企画でも、そうした診断が下された記録はありません。また、女優の桐谷美玲氏についても、華奢な手足や小顔といった卓越したモデル体型が独り歩きし、心ないネットユーザーによって病名と結びつけられた典型的なデマゴーグです。
さらにアスリート界でも、MLBで圧倒的な体格を誇る大谷翔平選手やフィギュアスケートの羽生結弦選手など、手足が長く柔軟性に優れたトップ選手に対して「マルファン症候群の疑い」を書き立てるまとめサイトが散見されます。しかし、これらのトップアスリートが過酷な身体検査をクリアして世界の頂点で活躍している事実そのものが、無根拠なラベリングであることを証明しています。
世界的な歴史に目を向けると、第16代アメリカ大統領エイブラハム・リンカーンや、超人的な指の可動域で悪魔的技巧を誇ったバイオリニストのニコロ・パガニーニなどが、後世の医学者によってマルファン症候群であった可能性を指摘されています。現代のスポーツ史において痛烈な教訓となったのは、1984年ロサンゼルス五輪のバレーボール銀メダリストであるフロー・ハイマン選手です。1986年、日本での実業団試合中に大動脈解離で急逝し、死後の病理解剖でマルファン症候群であったことが判明しました。この悲劇が、世界的に本疾患の認知とスクリーニング体制を飛躍させる契機となりました。