樫田堂の暖簾(のれん)をくぐる人がこぞって買い求めるのが、看板商品である「酒饅頭(酒まんじゅう)」です。地元・金石の地域情報アーカイブ「かないわおこし」や地域情報誌「金沢日和」の取材記録によると、同店は1967年(昭和42年)に先代が創業し、金石の地で50余年の歴史を刻んできました。2018年2月には旧店舗からほど近い現在の金沢市金石東1丁目へと新築移転を果たし、現在は2代目店主の瀬戸康裕氏がその卓越した技術を受け継いでいます。
一般的に流通している酒饅頭の中には、酒粕を混ぜ込んだり人工的な香料で風味付けを行ったりするものも少なくありません。しかし、樫田堂が貫く製法は極めて本格的です。同店では石川県内産の純米酒を酒種(さかだね)に加え、自然な発酵の力で生地を膨らませています。蒸籠(せいろう)の蓋を開けた瞬間に立ち上る香気は、ツンとした刺激臭とは無縁の上品かつ芳醇な吟醸香を放ちます。
口に含んだ瞬間のテクスチャーも特筆すべき点です。ふっくらと柔らかな弾力を持ちながら、きめ細やかでしっとりとした薄皮。その中に包まれているのは、甘さを極限まで品良く抑えた自家製のこし餡です。小豆本来の風味を損なうことなく、滑らかな舌触りでスーッと引いていく後口の良さは、職人が早朝から手間を惜しまず仕込む「朝生菓子」ならではの真骨頂と言えます。