「花粉症といえば鼻水と目のかゆみ」という認識は、現在の呼吸器内科学においては不完全な理解と言わざるを得ません。春先になると花粉症喘息で咳が止まらない理由の根底には、呼吸器医学界で強く提唱されている「One airway, one disease(ひとつの気道、ひとつの病気)」という病態概念が存在します。
日本アレルギー学会および関連学会の臨床統計によると、アレルギー性鼻炎(花粉症)患者の約30%〜40%が咳や喘鳴などの下気道症状を自覚しており、逆に気管支喘息患者の約70%以上がアレルギー性鼻炎を合併しています。鼻腔粘膜で生じた好酸球性の炎症は、鼻汁の咽頭への流入(後鼻漏)や全身性の免疫応答の連鎖を通じて、気管支へと波及します。その結果、本来は無菌で過敏性の低い気道粘膜が急速に炎症を起こし、わずかな冷気や刺激でも激しく収縮する状態へ陥るのです。
さらに、スギ花粉で喘息が悪化する原因には気象環境の変容も深く関わっています。都市部における排気ガス微粒子(DEP)やPM2.5と微細破砕花粉(Pollen Sub-micronic Particles)が結合することで、アレルゲン活性が通常の数倍に増幅。破砕された花粉の微小粒子は鼻腔のフィルターをすり抜け、気管支の奥深くまで直接到達します。これが、過去に喘息の既往がなかった大人であっても、突如として激しい咳や息苦しさを発症する決定的な要因です。