ネット上の一部コミュニティでは、「NFCが常時オンになっていると、電車内で背後から小型リーダーを近づけられて電子マネーを勝手に抜き取られる(スキミング犯罪)」という言説がまことしやかに語られることがあります。しかし、通信工学およびセキュリティ設計の観点から見れば、これは極めて非現実的な誤解です。
iPhoneのNFC通信は、規格上約2〜4センチ以内の至近距離でなければ電磁的結合が成立しません。満員電車で服越しに端末へリーダーを近づけたとしても、布地やカバンの厚みで距離減衰が発生し、通信は遮断されます。さらに、クレジットカードのタッチ決済を実行するには「Secure Element(安全な暗号化チップ)」によるトークン認証と、画面ロック解除または生体認証(Face ID/Touch ID)が不可欠です。エクスプレスカードに指定した交通系IC以外は、ユーザーの能動的な認証なしに決済が実行される脆弱性は存在しません。
また、「不要な通信チップを切ってバッテリーを1分でも長持ちさせたい」という心理から脱獄(Jailbreak)や非公式ツールを探そうとするユーザーも存在します。しかし、前述の通り待機電力は極小化されており、システムを不正に改造するセキュリティリスクの方が遥かに甚大です。Appleが設定項目を開放しないのは、ユーザーを高度なサイバー犯罪や誤操作から守るための強固な防壁(ガードレール)でもあるのです。